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人文書院
見えない敵との闘い
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ペスト菌発見と血清療法の確立により全人類の恩人と言ってもよいエルサン。
彼は伝染病や細菌学でコッホと並んで近代医学の創始者の一人として名高いパストゥールの晩年の弟子の一人である。
近年発見された千通に及ぶ手紙など豊富な資料をふんだんに引用しながら、十九世紀後半のドイツやフランスの医学や臨床教育の実際、つづく結核・ジフテリア・ペストなどの疫病や細菌との闘い、そしてインドシナにおける獣医学・畜産学・熱帯農業などへの果敢な取組みに全情熱を捧げた八十年の生涯を余すところなく初めて描いた詳細な伝記!
二十世紀初頭の大流行以来、幸いなことに、ペストは鳴りを潜めている。一方、一九七六年に〝出現〟したエボラ出血熱は中央アフリカで散発を繰り返し、ついに二〇一四年、世界的流行の兆しを見せ始めた。エイズウイルスを始めとして、サーズウイルス、ニッパウイルスなど、この半世紀のあいだに〝出現〟したウイルスを数え上げるだけでも、科学の力で疫病は根絶できるというのは幻想だったことが分かる。
香港でペスト菌を発見し、広東やアモイでその患者を治療し、ベトナムの寒村にパストゥール研究所を設立、そこを終の住処と定めて、「見えない敵」との闘いに孤高の生涯を捧げたエルサンの事跡を、いま真摯にふりかえる意味はかぎりなく大きいと思われる。
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