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人文書院
胸さわぎの鷗外
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古今東西の文学を縦横無尽に論じる、比較文学者西成彦による満を持しての鷗外論。戦時性暴力を静かに断罪する『鼠坂』、性欲処理に悩める男を描いた『舞姫』、民衆の語りを政治の語りに変えてみせた『山椒大夫』など、人間の身勝手さ、残酷さ、恥ずべき側面を、鷗外は見逃さない。魅力的な素材であったのだ。近代の申し子ともいうべき鷗外の冷徹なまなざしが明らかになる。その視線の下で恥じ入るべきは、レイプされた植民地の女や徴兵逃れの罪をおそれる移民の老婆ではなく、植民地帝国の男たち、そして恥を直視できない「腰砕け」のわれわれなのだ。
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